蒸気機関車(SL)は日本各地で、運行が少なくなってきている一方で限定的に地方都市で運行が再開されている人気の鉄道です。日本でも蒸気機関車を目当てに観光する人も多い、観光を盛り上げる1つの目玉になっています。
しかしバンコクはじめ、海外に住んでいる方には日本で蒸気機関車に乗るということはあまり機会がないのではないでしょうか?なんと驚き、タイ・バンコクで乗車体験が出来ます。今回は年6回しか運行されていない蒸気機関車(SL)を紹介します。
蒸気機関車に乗れるのは年6回

蒸気機関車の運行は今まで年間4回のみでしたが、2016年に国王が代わり新しい国王と王妃を祝う祝日が増えたことにより、年6回となりました。それぞれの日にちは固定されているので、毎年同じ日に乗車が可能です。(王族や軍のスケジュールによっては変動することも稀にあります)
3月26日 | 鉄道の日 |
6月3日 | スティダー王妃様の誕生日 |
7月28日 | ワチラーロンコーン国王陛下の誕生日 |
8月12日 | シリキット王太后の誕生日(母の日) |
10月23日 | チュラロンコン大王記念日 |
12月5日 | プミポン前国王の誕生日(父の日) |
蒸気機関車は、王族のお祝いセレモニーのために運行されるものとなっています。王族の誕生日はタイの祝日になっていますが、鉄道の日は祝日ではありません。乗車を計画される際にはご注意ください。
フアランポーン駅(バンコク駅)から乗る
蒸気機関車には、タイ国有鉄道の最大で最古の駅「フアランポーン駅」から乗車することができます。
フアランポーン駅として親しまれているこの駅は、正式名称をバンコク駅、もしくはクルンテープ駅といいます。もともと近くにフアランポーン駅という貨物の駅があり、その駅が廃止した後も同じエリアにあるバンコク駅をフアランポーン駅と呼び続けたことでこの名前が定着されたという説があります。

フアランポーン駅からは東西南北の各区方面と東北(イサーン)方面への長距離列車や近郊列車の他、マレー鉄道の列車が発着しています。なんと約200本もの列車が24時間発着しています。

フアランポーン駅の出発は行き先にもよりますが、おおよそ8時ごろ。出発前には、セレモニーが行われます。タイ国鉄の社員とその日の運転手が写真撮影されています。
蒸気機関車の行き先は?
蒸気機関車の行き先は、事前には決まっていません。フアランポーン駅からアユタヤまでの区間が一般的ですが、ピンクガネーシャで有名なバンコクの東に位置するチャチュンサオや、世界最大の仏塔プラ・パトム・チェディのあるバンコクの西に位置するナコーンパトムにも運行されています。蒸気機関車の乗車体験と一緒に、各地の観光もプランにいれれば、より充実した体験になりますね。

各区間は、蒸気機関車が往復で運行しています。チケットは往復チケットのみが販売されていますので、戻れなくなることはありません。各地での滞在時間は約4時間~5時間あるので、ゆっくり停車中の蒸気機関車の写真を撮るにも、タクシーやトゥクトゥクで主要観光地を巡るのにも十分な時間です。

バンコクの蒸気機関車とは
日本で造られた蒸気機関車
タイには5両の蒸気機関車がありますが、バンコクで運行されている蒸気機関車は、なんと日本の蒸気機関車です。5両のうち状態の良い2両はイベントに多く利用される蒸気機関車で、残りの3両は動態保存がされています。
1949年に日本車輌製造株式会社より造られた824号と、1950年に川崎車両より造られた850号が、現在バンコクで蒸気機関車のイベントに使われています。これらは日本でいうC57形で、磐越西線「ばんえつ物語」や山口線「やまぐち号」と同形の車両です。

2012年には、タイ国鉄がこの2両を分解検査し、ボイラーの入れ替えとブレーキシステムにエアブレーキを導入して安全の向上を図っています。ちなみに、ボイラーも日本企業の株式会社ヒラカワが一から見直して、設計・製造しています。
一方、第2次世界大戦中にタイとミャンマーを繋ぐ泰緬鉄道に使われたのはC56形です。C56形は乗車イベントには使われませんが、毎年11月にカンチャナブリで行われる「クウェー川鉄橋週間」のイベントで走行します。
なぜタイに日本の蒸気機関車が?
なんで日本の蒸気機関車がタイ・バンコクで走っているのでしょうか。
第2次世界大戦の際に、日本軍がタイ国内に持ち込んだ約100両の蒸気機関車を終戦後にアメリカが取り上げ、その一部がタイ国鉄に引き渡されたそうです。1948年と1950年にタイ政府から直接、日本に蒸気機関車が日本に発注されてタイに納入されました。
しかしながら、戦後でタイも経済的に厳しい状況だったため、100両を超える蒸気機関車のメンテナンス費用や、日本に発注した貨車を購入するお金がタイ政府にはなかったそうです。そこでタイ政府は、日本が戦後の食糧不足に陥ることを予想して食糧難解決のためにタイ米を送り蒸気機関車との取引をしたそうです。かしこい取引ですね。
日本人の手で造られた蒸気機関車が、タイの東北地方の農村などからバンコクまで米を運び、そのお米は日本へと輸出されていきました。
重油で動く蒸気機関車
日本を走る蒸気機関車は、昔と変わらず石炭を燃料として走っています。タイの蒸気機関車は重油が燃料となっています。当初は薪を燃料に使用していましたが木材不足を軽減するために、1971年に重油仕様に変更されました。下の画像は重油を入れるボイラー部分の写真です。

運転席のお披露目
一般的には運転席には入ることは難しいですが、この度、編集部が取材に成功しました!一部をご紹介します。
全体図

運転席の全体図です。目の前の赤い部分がボイラー部分で重油を蒸気に燃焼します。
運転席

全体図の右側には、運転席があります。意外と小さい椅子ですが、座り心地も気になるところですね。
逆転機

運転席の前にあるハンドルが逆転機です。このハンドルを回して前に進む、後ろに進むなどを調整しています。
機関車のブレーキ

赤い機材の間に金色の棒が見えますが、この棒が機関車のブレーキです。機関車のブレーキのみの役割で、後ろの客車部分のブレーキは別にあります。
客車のブレーキ

こちらが機関車本体ではなく、客車の速度を調整するために利用するブレーキです。
年に6回しかないチャンスを逃さないで!
いかがでしょうか。タイのバンコクを走る蒸気機関車(SL)を紹介しました。年に6回しかないタイ人にも人気のイベントです。大迫力な蒸気と甲高い汽笛の轟音は、体に痺れるものがあります。蒸気機関車にかつて乗車したことがある人も、鉄道ファンも気になるすべての人のご参加をお待ちしています!
チケットの購入は個人でも可能ですが、毎回即完売にあるほどイベントです。チケットの入手だけではなく目的地についてからの観光(現地オプショナルツアー)も一緒にするとお得です。チケットがなくても駅構内に入って、写真撮影は可能です。もし滞在中に蒸気機関車の運行日があったら、早起きしてフアランポーン駅まで見に行ってみてはいかがでしょうか。
きっと忘れられない思い出になるはずです。